介護保険に医療が吸収される

介護保険は、高齢者の終末期医療内容を左右するひとつの要因となっているのです。厚生労働省は、2006年4月に後期高齢者の医療を介護保険に吸収するために「リハビリ日数制限」が導入し、「改善するものは医療、改善しないものは介護」という前代未聞の原則を持ち出してきて、医療保険で提供すべき治療を介護保険に移し、患者からリハビリを奪い取ってしまったのだ。

これに対し多田富雄東大名誉教授は「リハビリ中止は死の宣告」と訴えて、全国から48万人もの署名を短期間で集め、「リハビリ日数制限の撤廃」を厚生労働省に迫ったのです。その結果、厚生労働省は、2007年4月には、日数制限を見直さざるを得なくなったにもかかわらず「給付調整」という通知を、ひそかに出してきたのです。それまで医療と介護保険の両方からサービスが受けられていたのですが、この通知によって介護保険が優先となり、一度介護保険のサービスを受けると、よほどのことがない限り医療には戻れなくなってしまう仕組みなのです。

厚生労働省は、介護保険業務については、登録された後期高齢者が介護保険の給付対象となっても、そのサービス提供機関・施設と協力しながら、引き続きかかりつけ医としての役割を果たす」ことで「診察から入退院、リハビリテーション、介護サービスとの連携まで含めて継続的な医療が推進されるとしています。

介護保険は保険料を40歳以上の人が負担し、65歳以上の人がサービスを利用できることになっているのです。それに対して後期高齢者医療制度は、75歳以上の高齢者と65歳以上の障害を持った人が対象で、ハイリスクグループで保険制度が運営されているのですが、医療保険を介護保険に丸ごと吸収させようという声も大きくなってきているのです。

厚生労働省が強調している医療と介護の一体的なサービスの提供とは、改善しない医療はある時期で中止し、その後は介護保険で対応し、高齢者や障害を持った人から必要な終末期医療を奪ってしまう「医療差別」に他ならないのではないかとの意見もあるのです。