[コラム] 効果的な生活習慣病対策に向けて

 大賞こそ逸したものの、2006年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンにランクインしたのが「メタボリックシンドローム」である。メタボリック シンドローム(Metabolic Syndrome)とは、内臓脂肪型肥満と高血糖・高血 圧・高脂血症のうちの2つ以上の疾患を発症している状態をさし、心疾患や 脳卒中の発症リスクを高めることが知られている。厚生労働省が平成16年に実施した国民健康・栄養調査によれば、予備軍を含めて40歳以上の男性の2 人に1人はメタボリックシンドロームの兆候が認められるという。

 メタボリックシンドロームが注目される背景は、平成20年度から施行される 医療制度構造改革の柱の一つとして、糖尿病・高血圧症・高脂血症などの生活習慣病予防の強化が打ち出されたことにある。具体的には、平成20年度から健康保険の保険者(健保組合や国保等)に健診実施を義務づけて生活習慣病のハイリスク者を発見し、適切な保健指導を行うことによって生活習慣病の発症を予防する。

 これまでも健診や保健指導は行われていた。しかし、自営業者や被扶養者(専業主婦等)の健診受診率が低いこと、また健診でハイリスク者を発見し ても保健指導が不十分であるといった課題が指摘されていた。その点で、こうした新たな取り組みは、近年の健康志向の高まりとあいまって、多くの国民の支持を得ることであろう。しかし、定着に向けて課題がないわけではない。筆者が特に注目するのは、ハイリスク者への保健指導のあり方である。

 介護保険制度の創設時ほどではないにせよ、20年度の施行に向けて、保健指導マーケットの獲得を目指した動きが活発化している。大手企業が出資したもの、大学発ベンチャー、従来から存在する健診事業者、スポーツクラブなどが名乗りを上げ、百花繚乱の様相を呈している。ところがこれらが提案す る指導プログラムは、3か月から半年の限定的な期間、運動・栄養指導を実施するといったものが多い。確かに実施期間中は一定の効果があるかもしれないが、期間が終わったあとはどうなるのだろう。同じ人が毎年ハイリスク者に選ばれ、同じことを繰り返すことにはならないのだろうか。

 ハイリスク者の多くは普通に生活している「大人」である。運動(をしない)習慣も食の好みも長年にわたって醸成されたものであり、これを一朝一夕で変えるのは想像以上に容易なことではない。少しは体を動かした方がいいことも、食事は淡泊なものにして酒や甘いものはほどほどにした方がいいことも、多くの人はわかってはいる。「わっかちゃいるけどやめられない」という人が多いのではないだろうか。そうであればこそ、一人一人のハイリスク者の嗜好と生活環境をふまえながら適切なプログラムを組み合わせ、実施の状況をモニタリングしながら時に励まし時に叱咤するという、地道で息の長い支援なくしては生活習慣の改善は実現しないだろう。

 効果的な保健指導を実現するために、エアロビクスや筋力トレーニングとい った具体的な運動・栄養指導「プログラム」が必要であるが、これだけでは不十分である。各人の生活習慣や嗜好をふまえながらその人にあったプログラム選びと継続を支える支援、すなわち「マネジメント」が必要なのである。

 健保組合や国保団体では、ハイリスク者への保健指導の具体的な事業実施準備にこれから入るであろう。その際、個々の指導プログラムの優劣もさることながら、ハイリスク者を支援する「マネジメント」をどのように組み立てるかにも注目していくべきであろう。

IBTimes - 2007/1/18