介護保険 回顧2006<1>

介護保険のことし一年を漫画にしたら? 制度改正という強打のボクサーが、右で保険料値上げ、左でサービス低下。被保険者も利用者も働く人もダメージが大きい。

 最初に利用者を直撃したのが“ベッドの貸しはがし”。これまで介護保険でレンタル可能だった介護用ベッドが、要支援と要介護1は対象外となり、仕方なくベッドを買い受ける人が相次いだ。すごい数になる。

 お金のない人はつらい。名古屋市の男性(48)は難病で要介護2。ベッド上で左手で動かぬ右手を支え、右指にペンを挟んで、絵を描くのが生きがい。更新認定で要介護1に下げられ、返還を迫られた。「生活の質を高める介護と言いながら、必要なものを取り上げるとは」とケアマネジャーは必死になって「例外規定」の適用を求め、ベッドを守った。
四月の介護保険制度改正で、これまでの「要支援と、要介護1?5」という六段階の認定区分が「要支援1、2と要介護1?5」の七段階になり、「要支援1、2」に認定された人には、要介護状態にならない視点(介護予防)を重視する予防給付が導入された。保健師、主任ケアマネ、社会福祉士の三職種をそろえた「地域包括支援センター」も設けられた。

 しかし、実質は「軽度者へのサービス引き下げ」という声が大きい。

 神奈川県茅ケ崎市で在宅介護サービスを営む有限会社「湘南ひまわり」の吉田恵子代表(64)は「ことしは15%の減収見込み」と嘆く。訪問介護で百八十人をケアしているが、予防給付の要支援1、2は支給限度額が低く設定されたからだ。

 寝たきりで要介護5の妻(85)を、認知症で要介護1の夫(88)が介護してきた家庭で、夫は六月の更新認定で「要支援1」へ。介護が生きがいの夫は気落ちして認知症が進み、一人にしてはおけないが、予防給付は週二回一時間半ずつが限度。残りは、ヘルパーに交通費込みの時給千八百円を自費で払った。十二月の更新認定で夫は「要介護1」に戻った。交代で介護を手伝う東京の娘たちも「この半年、何だったの? ころころ変わって」。

 要介護1の女性(77)は週三回の透析に通院乗降介助は、生活保護を受けており無料だった。更新認定で「要支援1」になり、この介助は生活保護の適用外に。移送サービスの片道五百円を払えず、バスで通院している。

 制度改正の狙いは、まだまだ機能していない。予防給付には、運動機能の向上、口腔(こうくう)ケア、栄養改善の三つが加わったが、多くの地域では、サービスが足りない。

 地域包括支援センターは、介護予防ケアプランに忙殺され、総合支援・相談、虐待防止へは手が届かない。

 地域密着型サービスの切り札になる小規模多機能ケアは、開設あるいは申請済みが全国で約二百カ所にとどまっている。介護報酬は要介護1が月額十一万円、要介護2が同十六万円と、介護給付より三万?五万円低く、採算割れになるからだ。改善を求める声が強い。

 湘南ひまわりが九月に開設した小規模多機能ホーム「ひまわりの家」も、登録定員二十五人に対し、登録者九人。うち三人は在宅介護が続かず、施設などへ移ってしまった。吉田代表は「めげずに通所、訪問、お泊まりを組み合わせ、家庭的な地域ケアの拠点に育てたい」と意気込む。

東京新聞 - 2006年12月13日