足りない! 介護の担い手 人材流出で事業者困惑

 介護サービスの事業者たちが、働き手の確保に必死だ。サービスを受給する県内高齢者の数は、二〇〇〇年の三・三倍に急増。しかし、介護職員の数は十分とは言えず、せっかく就職しても重労働に耐えきれず退職する職員が後を絶たない。しかも、景気回復により一般企業の採用が増え、介護職人気に陰りが。十七日の合同就職面接会は、参加事業者が多すぎて会場を広げるほどの活況ぶりだったが…。 (池田悌一)

 ハローワーク主催の就職面接会が開かれたさいたま市大宮ソニック市民ホールに、介護サービス事業者の四十六ブースが所狭しと並んだ。仕切りを撤去して会場を広げたにもかかわらず、熱気で息苦しいほどだ。

 その熱気の発信源は、事業者の人事担当者たち。求職者百八十七人(男性五十七人、女性百三十人)に対し、約百人もの面接官が、優秀な人材を求め目を光らせていた。

 一方、求職者はいたってクール。坂戸市の男性(29)は、非常勤職員として福祉施設で働いていたが「ゆくゆく考えると、バイトのままではきつい」と転職を考えた。

 特別養護老人ホームで三年間働いた女性(33)は「人が足りないため過労になり、腰痛を患う職員も多い。三割くらいは、数年と持たず介護の現場から去っちゃう」と話す。給与面では一般的な同年代に比べ、恵まれていたというが、より条件の良い職場を探しに来た。

 ブースによって人気はまちまち。これから開業する新規の九事業者のブースには、求職者がひっきりなしに訪れていた。

 さいたま市内で特養ホームを経営する社会福祉法人の担当者は、少し暇そう。「不況だった二、三年前までは、『もういいです』っていうくらい求職があった。でも今は一般企業に人材が流れているのか、求人広告を出しても、問い合わせすらほとんどない」と肩をすくめる。そして、「以前は、福祉に対する気持ちの強くない人を採用することはあり得なかったが、今は目をつぶる場合もある」と明かした。

 県内の介護サービスの利用者は、二〇〇〇年四月が約三万八千人だったのに対し、〇六年四月には十二万五千人と三・三倍に。居宅サービス事業者は九千百から一万四千七百に、施設サービス事業者は三百十から三百八十に、それぞれ一・六倍、一・二倍に増えた。

 需要に供給が追いつかない現状に加え、働き手の増員数は、事業者数の伸び率をさらに下回る。県介護保険課は「県内介護職員の総数の推移はまとめていないが、各事業者とも人員確保には苦労をしているようだ」と現状を憂慮。事業者も「完全な売り手市場」と口をそろえる。面接会に参加した鳩ケ谷市の女性(22)は人事担当者から「すぐに辞めてしまう人が多いので、なんとか長く続けてもらえないか」といきなり懇願されたという。

 ある人事担当者が語気を強めた。「利用者にきめ細かいサービスをするには、職員がもっと必要。確かにしんどいが、本当にやりがいのある仕事なんですよ」と。

<メモ>介護職の人員基準 介護保険法に基づく厚生労働省の基準では、特別養護老人ホームでは「介護職員と看護職員の総数は、常勤換算で入所者3人に対して1人以上」とされている。しかし実態は日勤、夜勤、早番、遅番などの交代制になっているうえ、欠勤者などにも備える必要があるため「2.5対1くらいでやっているのが現状」(県介護保険課)という。この基準では、訪問介護は「事業所ごとに常勤換算で2.5人以上」、通所介護では「利用者15人までは1人以上、利用者が5人増えるごとに追加で1人以上」の介護職員を求めている。

中日新聞 - 2007/1/19